The Home of Tweed~Firth of Forth,Scotland〈Part 2)
文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda
9月7日、東京五輪の開催が決まった。私のなかで五輪といえば、映画『炎のランナー』。ヴァンゲリスの名曲からはじまる1924年のパリ五輪の物語。
映画は1978年のロンドンで、パリ五輪に出場した選手を追悼する集会のシーンからはじまる。
1978年といえば、私が初めてスコットランドに渡った年であった。ロンドンのキングスクロス駅を朝7時発の列車にゆられながら、食堂車で薄切りトーストとクリスピーベーコン、目玉焼き、そしてミルクティ。トーストにはオレンジマーマレード(Tip Tree)をたっぷり塗った、いわゆるイングリッシュ・ブレックファストを食べながら、イングランドからスコットランドに入った途端、車窓はなだらかな丘と無数の羊たちの景色に変わった。
あれから35年ぶりに訪れたスコットランド(エディンバラ)は何も変わっていなかった。35年前に泊まったジョージホテルに今回も滞在し、映画の一場面のような北の大地をめぐって来た。
北海から風が吹き付けるフォース湾は、グレイのグラデーションの雲たちが私を待ち受けて、グレイトーンのツイードの世界に引き込んでくれる。
この湾にかかるフォース橋は、1890年(明治23年)に建てられた巨大な鉄橋で、産業革命で躍進した大英帝国の国力を思わせる近代史の遺産だ。
グレイツイードのジャケットは、何色かのトーンのグレイ系を混ぜ込み、ブルーのウインドペーンは曇った空から覗く青空の色。私の着こなしの色合いは自然の中に立ってどこまで同化できるかのくり返し。トラウザーズは申し上げるまでもなくグレイフランネル。
自然の神達にいつも頭が下がるばかりの旅であった。