写真・文/赤峰幸生 Photo & Essay by Yukio Akamine
20年程前はミラノに事務所を置いていた。ポルタヴェネツィアの近く、Nino Bxio通り。当時はイタリアファクトリーブランドの販売代理を行うために頻繁にミラノを拠点にしては、ヴィツェンツァ、ボローニャ、フィレンツェ、エンポリ、アローナ等の地方都市のドサ回りの連続であった。その当時から2、3泊の地方回りを終えてミラノに戻ると必ず立ち寄るのがホテルディアマジェスティックの裏手にある食堂、ローズィエガブリエーレ(Via SIRTORI,26)だ。
店は広く、天井も高く、あっけらかんとした空間で飾り気がなく、フィレンツェのカンミッロ同様プロのカメリエーレが当時は10名ほどいた。
1人で隅っこのテーブルで様々な魚料理をいただくと地元ミラノに戻ったホッとした気分にさせられた。今回十数年ぶりに立ち寄ってみたら、昔からのカメリエーレは1人だけ。店の主人と奥さんと娘さんが変わらず切り盛りしていただ、奥さんは87歳にも関わらず、お元気そのもの。昔から犬が大好きで歴代の愛犬の写真がレジの後ろに飾ってあった。聞くとほとんどのカメリエーレが年金生活(ペンショーネ)であったり亡くなった方もいると聞く。
開店食後に寄ったせいか、他に客は誰もおらず、一人だけ。広い店内をゆっくり歩いで感じたのは、映画『ニューシネマパラダイス』の主人公が何十年振りに昔の顔なじみと出会うシーンとダブりながら一人一人と挨拶して回ると髪は真っ白だったり、顔がシワだらけだったり、後ろから入ってくる馴染みの客もまた老いた姿を見ては懐かしさにひたってしまった。
この日はフォカッチャビヤンコ(ピッツァ台のみを焼いたもの)と白ワインのつまみとPacchelicon Pomodoro astice。巨大なマカロニとオマール海老が入ったトマト仕立てをいただき、締めて25ユーロ(約3000円)だった。
いつも思うことは残念なことに、日本人でありながら日本ではこの類の店があまりにも少ない事。一人でふらっと立ち寄れる何の変哲もない気軽な食堂がかつてはあったのに、なぜなくなってしまうのだろうか。変化の早い今の日本のスピードが服で言うところの定番商品が目まぐるしく変わってしまう。国民性と言ってしまえばそれまでだが、一人客を癒してくれる食堂が増えてほしいものだ。