写真・文/赤峰幸生 Photo & Essay by George Oda
ミラノにはVECCHIO DRAPPIEREという、昔の生地ばかり売る店がある。50年~80年前のエルメネジィードゼニアやハリスツィード等を5Mt以上もある高い天井に積み上げて、東京ではかつての神田須田町界隈にあった羅紗と似ている。店の歴史は判らないが、相当の年数であることは間違いない。
いつも不思議に思うことは、古い生地を仕入れて売っているのか、古くから営業を続けていて生地までもがヴィンテージの粋に達してしまったのか?良く判らない。
私が50年、80年も前の古き生地に興味を持つのは、その時代の工業技術の中で作り上げた上質な生地とはどんな手持ち感でどんな着用感だったのか、白黒映画の中で往年のハリウッドスター達が着ていたリアルジェントルマンファブリックとはどんな物かを味わいたいがゆえの興味だ。私にとってのこの店は日本昔話のごとく、ココ掘れワンワンのように生地の小判が埋まっている。
ミラノでは必ず立ち寄る店の一つで普通は店員が出す生地を選ぶのだが、私は店員に交じって高い脚立に上っては宝堀に興じる。
現代では考えられない色の組み合わせの柄や生地の風合いが数多く眠っていて、納得する生地を見つけた瞬間の感動は「見つけ」の気分。現代の目線で見ての新しい発見が限りなくある。
この店は紳士服地を取り扱う店にも関わらず、経営者は大奥ならぬ全て女性で、初めて訪れた15年程前最長老のおばあ様(ピンクのスーツ)が私を見て、“この日本人、どのくらい本物を知っているのか”と試された事を今でも忘れない。
今回は60年前の油の抜けたドライタッチなピンチェックの英国生地が私にとっての小判だった。