MY IMAGE BOARD FOR 2014 SPRING & SUMMER COLLECTION
文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda
毎年6月下旬になると、紳士服の来春夏物新作発表会が開かれる欧州へと向かう。
トレンドに流されることなく、自分のコレクションの独自性を保ちたいので、あらかじめ服を選択するお題を決めてから臨んでいる。
お題のまとめ方は、来年の気分として気になるイメージを集めて壁に貼り、そこから見えてくる方向性を類推する。
服飾業界のディレクターやデザイナーがイメージボードと呼ぶ物で、最終的には表に出ない元ネタのようなものです。
あくまでも私の服のコレクション用に集めたイメージボードの中から気になるものをいくつか紹介します。
スタイルの背景は、イタリアの映画監督フェデリコ・フェリーニ(1920-1993)が、1983年に発表した映画「E la nave va (邦題:そして船は行く)」である。
この映画は1910年代を背景に、オペラ歌手の葬儀のために豪華客船でナポリ湾から旅立つ人々を描いた群像劇である。登場人物の服にズバリ引用できるデザインは無いのだが、注目したのは設定で、古典的な貴族スタイルと船旅の融合に興味がわいた。
そこから類推して、 英国の貴族が夏の気分を求めて南仏へと船旅をするイメージを想定した。さらに、貴族からセレブへとイメージを広げ、指揮者のカラヤンや小説家のフランソワーズ・サガン、女優のブリジット・バルドーなどのリゾートスタイルも紐解いてみた。
色は夏の基本色と決めている白、ブルー、茶に、毎年気になる色調を加えている。
来年のブルーはフランス人画家ラウル・デュフィ(1877-1953)が描く、南仏の鮮やかな海の色が気分である。
鮮やかなブルーはスーツのストライプやポケットチーフなど、小さな面積でアクセントにする着こなしがおすすめだ。
茶系は昔ながらの手仕事感ある物の雰囲気が昨年に引き続き注目である。壁に貼ったテーブルクロスは南イタリアの老婦人が手仕事で染めたもので、その上の飾りはトスカーナ地方のもので、ポプリが入った手づくりの匂い袋である。
ストライプのリネン麻で作ったジャケットのサンプルは、オレンジやグリーンといった鮮やかな色を使いながら、民芸調の落ち着いた発色で、馴染んで見える。
一見シンプルな茶色のリネン麻で作ったジャケットのサンプルは、ダンディズムが流行した1920~30年に見られた、シングル・ピークドラペルのディティールを取り入れ、あえて製品洗いをかけないハードな仕上げにした。
来年の春夏物は、私の中では、きちんとした見えがかりと、鮮やかな色のスパイスが気になるシーズンである。
こうしたイメージを選ぶ基準は、料理のメニューを選ぶ気分と似ていて、理屈ではなく、わくわくするかどうかだと思っている。