COAT OF MANHATTAN
文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda
20歳代の後半、憧れのニューヨークに初めて渡った。1970年代初期の話である。その時、ソーホー地区の古着屋で買ったのが、このブルックス・ブラザーズのステンカラーコートだ。
おそらく1960年前後に作られたもので、今となっては半世紀以上も前のコートということになるけれど、気に入っていて、頻繁に着用している。
ステンカラーコートは、トレンチコートの重厚な印象とちがい、軽快でシャープな印象が着こなしのポイントと思っている。このコートはコーヒーのアメリカンのように、伝統物をアメリカらしい軽快な味つけで料理した点が気に入っている。
素材は市場に出始めたばかりの化学繊維を積極的に取り入れた綿ポリエステル混紡で、ハリコシがありながら軽さと光沢があり、天然繊維のタッチと化学繊維の機能が融合している。生地の織りは伝統的な綾織りではなく、ポリエステルに強度があるので、あえて平織りにした点も軽さに貢献している。
仕様は裏地なしの一枚仕立てで、首まわり開閉部は、ベルトや別布などのパーツを使わず、金属ホックであっさりと処理するなど、見るからに軽い仕立になっている。
男の存在感を醸し出すコートの醍醐味は、ひざ丈にあると思っているので、仕様を軽めにしながら、この点を外さないところが気に入っている。大きめのシルエットも、着こなしによって様々な表情が楽しめて魅力だ。
いまどきのコートは細身で着丈が短いものが多い。何でもそろう時代のようだけれども、市場の服作りは、右へ習えの同質化で、種類が少なく感じられる。自分の気に入ったバランスの服が市場に少ないことが、古着を愛用する背景のひとつである。
最初に古着屋でこのコートを試着した時、ニューヨークに憧れて何度も観ていた映画「ティファニーで朝食を」(1961年アメリカ映画)で、ジョージ・ペパードが着るコートのバランスとそっくりだったので、すぐに購入を決めた。
映画の中で流れるヘンリー・マンシー二・オーケストラのように、軽快さと優雅さのあるステンカラーコートは、いかにもニューヨークらしい雰囲気である。