フィレンツェの上質な食堂

写真・文/赤峰幸生 Photo & Essay by Yukio Akamine


フィレンツェに立ち寄れば一度は顔を出す店カンミッロ。サンタトリニタ橋を渡って川沿いに左に曲がるとすぐ右側にある100席ほどのテーブルが7時半の開店と同時にすぐに埋まってしまうほどの人気で25年くらい前からのなじみの店だ。

お気に入りの訳は、①味、②空気、③人、の3拍子と、何と言っても客種の良さである。上質の基本は常識の基本と言えるほど、ごくごく普通な事なのだと実感する。

カメリエーレも30年選手がぞろぞろいて、オーヴァーなパフォーマンスはないが、お客を盛り上げる頃合いが見事とした言いようがない。厨房との見事な連携といい、持ち場のテーブルの目配り気配りはセリエAのカルチョを見ているようなもので、プロのカメリエーレ達の厨房に注文を掛ける掛け声が他のカメリエーレの注文と重なり合ってもシェフの手は休まることなく、動く手さばきは 芸術的と言ってもいいくらいだ。

無論、勝ち点「1」はお客様の満足。どのテーブルも美味い味に舌鼓を打ち、満足気だ。ちなみに私はフィリエット、ペペヴェルデのミディアを注文した。フィレ肉の大きさや 厚みといい、ペッパーとソースと塩の加減が絶妙で、シンプルが故に客を騙すことができない 私のお気に入りの一品だ。8時半頃にはそれぞれのテーブルから聞こえる話し声が最高潮となり、話し声がオーケストラの音を奏でるような盛り上がりの中をカメリエーレ達の客さばきが絶好調を迎える。

上質な食堂を支えている空気は①・②・③拍子のそれぞれが暗黙の了解ごとがあっての事。キャンティの赤ワインを3杯飲みほした私は、店を後にした。