KAPPABASHI MARKET FOR RESTAURANT PROFESSIONALS, TOKYO
写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda
人類は道具を使うことで進化してきた。石器にはじまり、宇宙船にいたる。
東京都台東区にある合羽橋は明治末期より飲食関係の道具街として発展し、今では、世界でも類を見ない規模に広がっている。
それぞれの専門店は竹ザルだけを扱うお店があったり、包丁、食器、提灯、看板、食品サンプルなど、各店が分業しながら共存している。目的買い客が中心なので、呼び込みやバーゲンとは無縁だ。焦らずに、自分の店の商品を求める客を待っている。
利用する客の大半はプロの料理人である。皆それぞれのスタンスでお客様をもてなす道具探しに真剣だ。自分の腕と店舗を想定して、道具を見ては沈思黙考している。
この通りにある台東区立中央図書館内にある池波正太郎記念文庫は、台東区にゆかりのある作家池波正太郎(1923〜1990)の資料展示館である。生前使用していた書斎の再現や愛蔵品が展示されている。執筆をするための万年筆や挿絵のための絵筆、時代劇を書く資料として収集した古地図などの道具はどれも使い込まれている。趣味や投資のために収集したものではなく、大衆を感動させる創作のために使い続けていたことがわかる。
手先の器用さで道具を作り、使いこなしてきた日本人の資質の高さと生真面目さを感じる街である。料理は電磁波では作れないので、手加減が重要になる。店頭には道具が手に取れるように積み上げられ、気取りが無いところがいい。
料理人だけではなく、映画やテレビの撮影セット用に台所用品を仕入れに来るスタッフも少なくない。自分も店頭装飾用の品を調達するために合羽橋をよく利用する。夏の装飾用にラムネを仕入れたら、店主の婦人に「冷えてなくても、いいのかい?」と言われた。大衆の食文化を支えてきた道具街は人情味にあふれていた。