KYU-NAKAGIMI SCHOOL EST.1875 SAKU-SHI,NAGANO PREFECTURE
写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda
卒業シーズンが一段落して、桜の中を新入生が行き交う季節が近づく。駅のホームで、いかにも入学式に出かける親子を見かけると、学校へ入学した頃の初心を思い出す季節でもある。
長野県佐久市にある自社のシャツ工場に出向く途中、いつも見える旧中込学校は1875年(明治8年)に小学校として開校した。
明治維新直後の欧化政策で、見よう見まねで洋風建築に挑んだデザインは、窓から直射日光が差し込まないようにバルコニーが配置されている。亜熱帯地方の植民地向けに開発された欧米の建築様式を取り入れたものだが、夏でも涼しい信州にふさわしい機能かどうかは疑問だ。さらに、和の要素も残そうと瓦屋根を取り付けたコンセプトは強引に思える。しかしながら、新しい時代に対する地域住民の意気込みが感じられる。
その後、建築技術は進歩して、校舎も耐震構造や廃校後の施設転用があらかじめ配慮されるようになったが、効率を重視するあまり無機質な建物が多くなった。学校の思い出となるアイコンは少ない。
中込小学校は役目を終えた後も地域住民によって取り壊されることなく保存された。現在は、現存する日本最古の洋風建築校舎として国の重要文化財に指定されている。
タクシーの運転手に聞いたところ、最近はこの学校のある街道を地図を持って歴史散策をする観光客が増えているそうだ。毎日生活する空間に文化や情緒が感じられる造作を取り入れた時代をしのぶ人は少なくない。
旧中込学校の白とグリーンのコントラストによる明治の初心は、擬洋風建築というジャンルを通り越え、今も青い空に映えていた。