名画周遊:長浜

TRIP TO MOVIE LOCATIONS
NAGAHAMA,SHIGA PREFECTURE

写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda

日本一広い湖、琵琶湖の湖畔は、電柱やビルに侵食されていない、日本の原風景を想わせる場所が残り、時代劇のロケに使われることが多い。

『雨月物語』(溝口健二監督1953年・昭和28年作)は、江戸時代の怪奇小説をもとに、舞台を戦国時代の近江の国に置き換えて映画化したもので、琵琶湖で撮影した場面が効果的に使われている。

琵琶湖周辺の村に暮らす森雅之演じる農民は、農業のかたわらで、焼き物を作っていた。ある日、農民は、村から近い長浜の町が秀吉の軍勢に支配され、景気が良いという評判を聞く。そこで、焼き物を手押し車にのせ、長浜に売りに行くと、すぐに完売した。

今も長浜の所々には、古いつくりの商店や民家があり、城下町として栄えた面影を今に伝えている。

農民は初めて大金を手にすると欲に目がくらみ、家に帰ると、さらなる大金を求めて、人が変わったように焼き物を量産する。

落武者の集団が食糧を求めて村を襲うと、村民は暴行を恐れて避難するが、農民は家族の反対をふりきって、長浜に焼き物を売りに行ってしまう。

再び焼き物は売れたけれど、農民は戦没した一族の死霊にとりつかれてしまい、幻覚を見ながら町をさまようようになる。

農民はうつろな目で町を歩いていると、すれ違った神官に呼びとめられ「お前の顔には、死相が出ている」と言われる。

神官は死霊の影を察知し、農民に「お前は家は無いのか?妻子は無いのか?お前を頼りにする者があるなら、早く帰れ。このうえ、さまようていては、命がない」と、さとしながら、神社の中で悪魔祓いの術を施す。

農民の葛藤を通して描かれる人生訓や、琵琶湖を背景にした映像美は、民話のような普遍性があり、『雨月物語』は世界各国で高く評価され、日本人の奥深い感性と創造力を広く知らしめた。

長浜の旅の終わりに、郷土料理のお店「茂美志屋 (もみじや)」に立ち寄った。

ビールの肴に選んだ琵琶湖特産の小アユは、小さいながら、中味がしっかりしていて味わいがある。

焼きサバ寿司は、海から遠い地域の貴重な保存食として発達したもので、しっとりとして粘り気のある食感のなかに、サバや酢の豊かな風味が混じり合う。塩加減はあっさりしていて、好みによっては、醤油を少したらすのも良い。

頃合いを見て、あんかけ汁に旨味を凝縮した名物「のっぺいうどん」を注文する。

店員を呼ぶと、奥から着物姿の女将さんが現れ「のっぺしましょか?」と、言われる。短いやりとりの中に、どこか懐かしい響きが感じられた。

うどんの上にのった、せんべい程の大きさのどす黒いシイタケをかじりながら、農民が命がけで焼き物を売りに来た町は、「こんな感じだったのかな…」と、想いをめぐらせた。