写真・文/赤峰幸生 Photo & Essay by Yukio Akamine
ロンドンから約290キロのウェリントンの丘にFOX BROS.村はあった。産業革命直後の1778年創業でかつては5000人の行員が働いていた。
時代のスタイルがめまぐるしく変わる昨今、変える物と変えてはいけない物を自ら再検証したくなり訪れた。
言うまでもなく、様々な時代の政治家、俳優、学者などがサビルロウで仕立て上げた生地を自分の手の触覚で記憶させたく、生地屋の厨房に足を踏み入れたような時間だった。
だだっ広いアーカイヴルームは時の軍服向け、ハンティング向け、ゴルフ向け、礼装向け等々の生地や見本が所狭しとあり、まさに宝の山のよう。
向かいの織場では当時の織り方(シャトル式)でゆっくりと手間とひまを掛けながら生地づくりが行われていた。
併設された別室はとりたての魚をその場で調理して出すように、FOX社のかかえるカッターが手作りで服にしていた。
これは紳士服地のアーカイヴレストランと言えるにふさわしい方法。今の日本は様々な分業が進み過ぎ、物づくりが一気通貫で最後の着てくれる人に伝わりにくい時代。
顧客の為の物づくりが、結果、ビジネスとして花が咲く時を切望してやまない。