監修/赤峰幸生
構成・写真・文/織田城司
Grey Suit & Red
Directed by Yukio Akamine
Edit,Photo,Text by George Oda
服飾ディレクターの赤峰幸生さんに、この秋気になる着こなしを紹介していただきました。
ワードローブのグレースーツ
この秋は、赤をアクセントにしたグレースーツの着こなしが気になります。
流行というより、あくまでも私の気分です。着こなしのひとつとして、参考にしていただければ幸いです。
まず、私が所有するグレースーツの中から6着を紹介しましょう。
◼︎原点回帰とグレースーツ
近年の消費者動向のひとつに歴史探訪があります。世界遺産への旅や、古地図でめぐる街歩きが人気です。服飾の世界でも、エルメスやルイ・ヴィトンといった老舗メゾンの大回顧展が相次いで開催されました。
こうした流れの中、紳士服でも、現代のエレガントスタイルが完成した1920〜30年代の着こなしが見直され、当時多く着用されていたグレースーツに注目しています。
本来いつの時代にあってもよい基本アイテムですが、最近、茶系のスーツを着る機会が多かったので、自分の中で「久しぶりにグレーも新鮮だな」と感じています。
グレースーツの中でも、オススメはミディアムグレーです。黒に近いチャコールグレーだと黒の靴しか合いませんが、ミディアムグレーだと、黒と茶どちらの靴にも合い、幅広い着こなしが楽しめるからです。
◼︎リベラーノのグレースーツ
私が愛着しているグレースーツのほとんどは、フィレンツェの名仕立師、アントニオ・リベラーノさんのアトリエ『リベラーノ&リベラーノ』で仕立てたものです。どれも10〜20年着込んでいるものばかりです。
トランクショーのために来日した同店の日本人ショップ・マネージャー大崎貴弘さんと仕立て職人チェマリ・セリミさんが7月24日、忙しい合間を縫って来社され、ひとしきりスーツ談義をしました。
【大崎貴弘さんの談話】
「赤峰幸生さんには30年来、リベラーノでスーツをお仕立ていただき、誠にありがとうございます。
今回、赤峰幸生さんのオフィスで、リベラーノのスーツコレクションを見て感じたことは、1990年代と2000年代に仕立てたスーツでは、シルエットのバランスに変化が見られることです。具体的には2000年代の方がややタイトになっています。
一般的には、顧客から再注文があった場合、特に要望が無い限り型紙は同じものを使い、同じシルエットのスーツが出来上がります。
ところが、リベラーノは時代の流れを反映させるため、型紙に微細なアレンジを加えているのです。
ポケットの位置がスーツごとに違うのも、想うところがあってチョークを打っているのでしょう。そんなことを改めて感じました。」
ということで、リベラーノさんにスーツを仕立ててもらう時は、主治医のように信頼して、おまかせしています。縫いの技術もさることながら、顧客と時代を見据えたカットの妙に名人芸を感じます。
赤で着こなす初秋の気分
◼︎古書に見るグレースーツ
紳士服の着こなしで難易度が高いのは一見、普通に見えるけど、どこか違うように見せることだと思います。
それを念頭に、この秋の着こなしのヒントを探すために、1930年代のヨーロッパのファッション誌を紐解きました。やはりグレースーツの提案が多く、赤系のネクタイを合わせる着こなしも多く見られます。ダブルブレストのデザインもクラシックなエレガントが感じられ、今の気分です。
◼︎バウハウスの赤と黒
1919年にドイツで開校したデザイン学校バウハウスが追求したデザインのレトロモダンな印象も今の気分です。
特に、ポスターのグラフィックに見られる赤と黒のコントラストに、時代を越えた調和を感じます。
◼︎グレースーツを赤で着こなす
アーカイブから着想を得て、私なりに秋の着こなしをまとめて、ダブルブレストのグレースーツに赤黒配色のネクタイを合わせてみました。この場合、靴は黒になります。赤を合わせるといっても、面積は七味唐辛子のようにピリリときく程度で良いでしょう。
ところで、赤黒配色のネクタイは、日本の店頭でお目にかかることは滅多にありません。でも、品揃えが少ないとは思いません。私のような変わり者が少なく、たくさん売れないのがわかるからです。このため、ヨーロッパに行った時に、老舗の専門店や古着屋で探しています。