フランク・ロイド・ライトをたずねて

JAPANESE STONE DESIGNED BY FRANK LLOYD WRIGHT

文/赤峰幸生 Yukio Akamine
写真/織田城司 George Oda

帝国ホテル東京 THE IMPERIAL HOTEL TOKYO

日比谷の帝国ホテルのロビーに大谷石でできた記念碑がある。

1967年に老朽化のため惜しまれて取り壊された、帝国ホテル旧本館のデザインを手がけたアメリカ人建築家フランク・ロイド・ライト(1867-1959)の偉業を讃えるため、かつてライトがロビーに配置した大谷石の壁面装飾を2005年に復刻したものである。

記念碑を眺めていると、ライトが手がけた帝国ホテルに通った青春時代のことを思い出した。

明治村に移築保存されているライトが手がけた帝国ホテル旧本館ロビーの一部FRANK LLOYD WRIGHT DESIGNED IMPERIAL HOTEL BUILT IN 1923

1960年代のはじめ、桑沢デザイン研究所に通っていたころは、欧米の映画に熱中して、西洋文化に憧れていたけれど、海外旅行は庶民にとって夢の時代だったので、渋谷の在日米軍相手の洋風カフェNAC(ナカタニ)に行って異国情緒にひたっていた。

もうひとつ、異国情緒にひたれる場所が日比谷の帝国ホテルであった。学生の小遣いでも手の届くサービスは限られていたけれど、ラウンジのコーヒー一杯で何時間もねばって、西洋の観光客が映画の中と同じように鮮やかな色のジャケットやシャツを着こなす姿やナイフとフォークを使う手つきをじっと見ていた。

仲間と銀座を闊歩する時は、ホテルの中の靴磨きで磨いてもらったピカピカの靴が自慢だった。

やがて、実際に海外に旅立つようになると、帝国ホテルからは足が遠のき、その後すぐに建て替えのために取り壊されて、玄関の一部が明治村に移築された。

数年前、明治村を訪ねた時、久しぶりにライトが手がけた帝国ホテルの建物と再会した。

学生時代は西洋の観光客の立ち振る舞いを吸収することに夢中でだったけれど、
明治村であらためてライトのデザインを紐解くと、ライトは浮世絵に熱中して日本文化に憧れ、帝国ホテルのデザインを手掛ける何年も前から日本の村や町を旅していたことを知った。

帝国ホテルのデザインを手がけた時は、西洋の煉瓦をそのまま使うことはなく、栃木県特産の大谷石を主材料にしたことは、日本の文化に対する深い造詣があったことがうかがえる。

物づくりは、作り手と生産背景を育んだ気候風土の出汁がきいて、深い味わいが生まれることを感じた。

食文化や服飾も同じで、お米やお酒、綿花や羊毛など、素材の産地ごとの特徴やシェフやデザイナーの人となりが生きてこそ面白い。

西洋の文化に触れるようになると、西洋の人から日本の文化を教わることが多く、日本人なのに日本のことを知らない自分に気が付いた。

今は日本の気候風土をめぐり、日本の村や町を旅する機会が多くなった。