フランネルの味

A TAIST OF  FLANNEL

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

今年の秋冬物の紳士服を自分なりにイメージすると、やはり気になるのは産業革命の頃の英国調で、ここ数年続いている傾向である。旧式のゆっくりした機械と手仕事で作る生地の不均一でぬくもり感のある表情が気に入っている。

ところが最近、こうした傾向を背景に、服を作って売る人たちが、生地の生産工程ばかりをクローズアップして服を語ることに疑問を感じる。マスコミが生地工場の見学記を媒体で紹介するのはいいが、服を作って売る立場の人であれば、自分自身がその服を着込んでいなければ、魂が入っていない、心ここにあらずの提案になる。

服の生地は料理でいえば食材で、裁断縫製は調理で、着こなしは盛りつけである。いくら食材がいいと言っても、その先の料理や盛りつけの話がなければ、お客様にとってわかりにくい説明だ。自分が口にしてみて「うまい」と思ったものを人様にすすめるような説得力がないのである。

では、どのように着込んだ服の味わいをおすすめするのか。一例を紹介すると、ここに私が10年着込んだグレーフランネルのスーツがある。

上の写真の左の生地は新品で、起毛が立っているのでストライプがぼんやりと沈んで見える。

右は同じ生地を10年前に仕立てたスーツの太ももの部分で、着込んでいるうちに摩擦の多い部分の起毛がうすくなり、底にかくれていた白いストライプがはっきりと見える。

着る人の体に馴染んだストライプの強弱は、ジーンズのアタリのように、着込んだ人の風格と同化して、味のある見えがかりとなる。

手間ひまかけてしっかり織り上げた生地の服は、無垢板の家具のように使い込むほど味が出るので、着込むことが楽しみになる。

着込んだグレーフランネルのスーツの着こなしを考えた時に、ネクタイは色柄のみならず、織りの表面感を吟味して、スーツの素材感を意識して光沢感をおさえた梨地織りを選んだ。

ポケットチーフを白にしてアクセントを付けたら、シャツも白だときれいすぎて見えると感じたので、白に近いうすグレーの刷毛目織りの無地シャツを選び、遠目にはわからない程度に、少しトーンダウンして馴染ませた。

靴は履き込んで味のあるものを合わせるけれども、渋めのワインカラーで遊んでみた。着込んだ服の着こなしは、味合わせとハズしの加減に妙がある。

服をおすすめするのであれば、聞きかじりの生地の能書きばかりを並べないで、
「着込んでナンボ」を語るべし。自ら着こなして見せることは、言うまでもない。