RHAPSODY IN OSAKA
写真・文/織田城司 Photo & Essay George Oda
2013年4月26日、JR大阪駅前の梅田貨物駅跡の広大な敷地に大型複合商業施設「グランフロント大阪」が開業した。
施設は、梅田でお散歩が楽しめる街をコンセプトに住宅やホテル、オフィスなど、4つのビルを核にして、それを包む水と緑の自然環境、266件のショップとレストランで構成されている。
新しい商業施設をいち早く見ようと、オープンと同時にたくさんの人々が訪れた。
人々は、とりあえず屋上庭園を目指し、ふたたび降りてゆく。
「お母さん」と泣きながら走り回る迷子の男の子、「たくさん人がいてお祭りみたいね」と語り合う20歳代の男女、「この色私に似合うかしら」と試着室から満面の笑みで出て来て主人と語る30歳代の女性、「関西初の店はどこだ」と案内係に訊く60歳代の男性、「せっかく来たから何か食べて帰ろうよ」と混雑で嫌気がさしている主人を説得する70歳代の女性。
様々な人々の想いをのせて、入場者数は開業3日目で100万人を越えた。
大阪に近い住宅地芦屋の阪急電車線路沿いに広がる芦屋山手サンモールは、高級ブティックや大手チェーン店とはちがう個人商店が集まった、昔ながらの庶民的な商店街だ。
昼時分、地元の人々が次々と入る中華料理店「三十番」で、ラーメンと焼きめしセットを注文する。散歩帰りと思われる地元の老紳士は海老チリとビールを注文していた。
ラーメンは、いかにも白コショウとラー油が似合う、昔ながらのあっさり味で、モヤシと焼豚は新鮮で歯ごたえがしっかりしている。焼きめしは炒め加減が程よく、卵が香ばしく香る。量と濃さでねじ伏せる都会のラーメンではなく、地域住民とともに歩んだ素朴な味わいを感じる。
阪急電車で再び梅田界隈にもどり、古本屋街や催し物を宣伝するコンコース、食堂街などを散策する。
大阪の仕事先関係者から、「そりゃ君、せっかく梅田まで来たからには、暑い季節になる前に鴨食べて帰らなきゃ」と言われた。この界隈で鴨といえば、新梅田食堂街にある「新喜楽」の鴨鍋定食のことである。なるほど、と思ったら急に食べたくなった。
定食の鴨鍋は溶き卵が入っただし汁に鴨肉とネギ、豆腐だけのシンプルなもの。しかしながら、鴨肉から出た旨味が淡白な素材と調和して、想像以上に深い味わいがする。中央にひとふりされたサンショウの粉末が、実によく効いている。サンショウには、こんな使い方があったのかと感心しつつ、光沢と弾力があるごはんをおかわりした。
同じ新梅田食堂街の居酒屋「豊」も、かつて仕事先の関係者から教えていただいたお店である。季節の魚を使った小料理が豊富だ。
昔ながらの商店街で長く続いているお店は、どこも気取りがなく、素材の味が生きた飽きのこない料理を良心価格で提供するお店が多い。
居酒屋「豊」の婦人店員から、「アンタら、新しくできたビルの関係者か。昨日も新しくできたビルの家具屋さんとかいう人たち来とったで。ビルの上もええけど、たまにはガード下で、大阪気分味わいたいんじゃろ。アハハ」と言われた。