パリの朝

Morning in Paris

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

子どもの頃、パリが舞台の映画を何本観たことでしょうか…今でも、パリと聞くだけで心が躍ります。

それゆえ、パリに行った時は寸暇を惜しんで、あちこちを見て回ります。

朝は商業施設が開くのが待ち遠しくてなりません。そんな想いから見つけた楽しみは、街角の生きた博物館をめぐることでした。

老舗パン屋 ポワラーヌ POILANE

朝一番、まだ夜が明けきらないうちから、日本でいえば、豆腐屋がコトコトと音をたてて仕込みをはじめるように、パリでは、どこからともなく、焼きたてのパンの香りがただよってきます。

そんな街角の小さなパン屋「ポワラーヌ」は世界中から観光客が押し寄よせる老舗です。

焼きたてのパンやクッキーの美味しさを味わっていると、パンづくりも服づくりも基本は同じで、何よりも仕込みが肝心と学ばせてくれます。

カフェ・フロール CAFE DE FLORE

「カフェ・フロール」の創業は1885年。パリ近代文化発祥の地、サンジェルマンにあるが故、開店当時から若い芸術家たちが集まったお店です。

ここでは、そんな伝説にひたるのも良いですが、朝食が結構いけるのです。

フィセルという、細くて短いフランスパンのスライスと一緒に、ショコラ・ショーという、チョコレートをあたためた伝統的な飲み物とゆで玉子を注文します。フィセルは皮を好むパリッ子たちが中をどんどん細くしてできあがったものだとか。

ゆで玉子のゆで方は5分と注文した半熟で、スプーンで殻の横を叩いて割り、上蓋を取るように開けます。

フィセルに半熟玉子やショコラ・ショーをつけながら食べ、お好みによってフィセルにバターをぬったり、玉子に塩コショウを加えるのもいいでしょう。

素朴な味わいのフィセルは、ほおばった瞬間になんとも言えない「幸福感」が広がります。日本ならさしずめ、美味しい白ご飯の「玉子かけご飯」でしょうか。

アンファンルージュ MARCHE DES ENFANTS-ROUGES 

1615年に創業して、パリ最古の市場とされる、アンファンルージュは業務用の巨大な市場というより、庶民向けの小さな市場で、下町情緒がただよいます。

果物などは、日本で見るものと形がちがいます。少し買って、公園やホテルで食べながら味のちがいを楽しむのもよいでしょう。

旅先では、豪華な一流店よりも地元の庶民に長年愛されているお店に興味が尽きません。そんな場所をめぐっていると、いつの間にか陽がのぼり、いい時間になりました。