新春対談 2016

NEW YEAR TALK 2016
写真・レポート/織田城司 Photo & Report by George Oda

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赤峰幸生氏(左)のオフィスで古雑誌を見ながら談話する白井俊夫氏(右)

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

今年から18歳以上に選挙権が与えられます。1月3日、年始の挨拶で集った横浜の老舗洋品店「信濃屋」の白井俊夫氏と、服飾ディレクターの赤峰幸生氏に、紳士服飾ビジネスを目指す若い人への提言をお聞きしました。

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感動と夢

(白井俊夫氏)
8歳の時に終戦をむかえました。玉音放送は疎開先の御殿場の商家で聞きました。お話の意味はわかりませんでしたが、親たちが泣いているのを見て、日本が戦争に負けたのだと思いました。

18歳の頃は、朝鮮戦争後の好景気が続いていて、横浜の街も賑わっていたけれど、革靴をはいていたのはアメリカの軍人だけでした。街の至る所には愚連隊と呼ばれるチンピラがたむろしていて、親は子供が愚連隊に引き込まれないか目を光らせたものです。

その頃、FENという米軍の極東向けラジオ放送と出会いました。カントリー&ウエスタンやジャズといったアメリカの軽音楽を一日中流していて、どの曲も明るく軽快なテンポで格好良く、感動して夢中になりました。そのうち、聞いているだけでは飽き足らず、友達と楽器を持ち寄って演奏するようになりました。

おかげで、愚連隊に染まることもなく、紆余曲折しながら洋服屋に奉公して堅気になることができました。今にして思えば、アメリカに憧れたというよりも、人々を喜ばす文化の力に感動したのだと思います。やがて、自分も何かを通じて人々を喜ばせたい、という夢を持つようになったのです。その想いに今も変わりはありません。若い頃、まして戦後の荒廃した時代に、感動できるものに出会えたことは幸運だったと思います。

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人間味のあるお店

(白井俊夫氏)
10年ほど前、英国の老舗靴メーカーを訪ねたら、先の長い靴を置いているから理由を尋ねると、日本の小売店の別注だという。そんなものはすぐに飽きられるから、やめろと言ったけれど、ジャパンマネーが欲しいから受けてしまうのでしょうね。

日本の小売店は別注モデルの開発という小手先に傾注しているうちに、モノはブランド化したものの、モノだけならネット通販で買えばいいという時代になり、お店の価値は薄れていきました。

昔はブランドといえば、モノではなくお店ですよ。どこそこで買うということにステイタスがあった。そんなお店には、お客様と対話をしながら相談に応じくれる販売員がいた。相談と言っても着こなし提案だけではなく、地域の美味しい飲食店やおすすめの映画といった、生活文化全般にわたる情報です。もちろん、今はそのような情報はインターネットでもわかるのですが、一覧表のように平坦です。

ウチはこうなのだ、という独自目線のオススメは、ある意味リスクですが、そこに感じられる人間味や個性が人々を惹きつけるのです。いずれにせよ、服を売るにしても、服だけ詳しいというだけではなく、広い視野が必要なのです。

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想像力と独自の発想

(赤峰幸生氏)
今はインターネットであらゆる情報が手元の携帯電話で閲覧できます。ところが、若い人が作る服は同じようなものが多く、着てみたいとか、面白さを感じるものは少ない。物作りの要領はスマートかもしれませんが、既存の服のコピーやアレンジが見えてしまうのです。

白井さんや私が18歳の頃は、情報ツールはほとんど無く、ラジオや映画から想像力を膨らますしかなかった。結果的に独自の発想が生まれる土壌がありました。

今の若い人は、着こなしを考えようとすると、すぐにインターネットでモデルが服を着こなした写真を検索するけれど、私が若かった頃は、街で行き交う人々を見ながら、あの人のコートの着こなし格好いいな、と思いながら脳裏に焼き付けたものです。インターネットを使うな、とは言いませんが、魅力のある服を作ろうとするなら、普段から生のモノに触れたり、想像力を膨らますことを意識すべきでしょう。

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男はスタイル

(白井俊夫氏)
紳士服の装いについて聞かれると、「男はファッションではなくスタイル」と、言い続けています。男は、その人の風格に合ったスタイルを、無理なく自然に着こなすことで格好良く、魅力的に見えるものです。

自分のスタイルを見出すまでには時間がかかるので、若い頃は、流行服をとっかえひっかえ着るのもいいでしょう。時には失敗も必要です。その繰り返しの中で、自分に合うスタイルは何なのかを常に意識するとよいでしょう。

紳士服の発展のためには若い人の力が不可欠です。個性のある若い人がたくさん出てくることを期待します。

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