ネクタイの季節

SEASON OF TIE

エッセイ/赤峰幸生
編集・写真/織田城司 Essay by Yukio Akamine  Edit & Photo by George Oda

秋の衣替えで、今日からネクタイを着用して通勤という方も多いのでは。

昨日、セミナーに招かれ、ネクタイの着こなしについてお話したので、その内容をお伝えします。

あくまでも私の考え方で、決まり事ではありませんが、皆さんの着こなしの参考になればと思います。

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ネクタイは「結び」の役割

ネクタイは、男の着こなしの中で重要な役を担っています。落語なら「オチ」にあたり、論文なら「結論」で、いわば「結び」の役です。

スーツやシャツ、靴、鞄などは、その前振りのようなものです。すべて、ネクタイという「結び」に向かって集まっています。このため、ネクタイが決まらないと全身に締まりがなく、緩慢に見えます。

そうかといって、ブランド物や高価なネクタイを身に付ければ良いというものではありません。「結び」が面白ければ、無名の安価なネクタイでも良いのです。

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たいていの人は、その日の着こなしを決める時、スーツからお選びになる。それにシャツとネクタイを合わせようとするから地味になる。

私はネクタイから選んでいます。ネクタイを選ぶ基準はその日の気分。先に「結び」を決めてから、そこに至る筋道として、合わせるアイテムを選んでいきます。時には、大団円ばかりでなく、波乱の展開もあります。

例えば、樹々が色づいてきたな、と思ってオレンジ色のネクタイを選ぶ。それに合わせて靴と鞄を茶系にする。スーツも茶系にすると合いすぎて単調になるからグレーで中和しよう、と考えるわけです。

ネクタイはスキなく結ぶ

ネクタイを結んだ時、首とシャツとネクタイの間にスキがなければ、キチンと見えます。逆に、ここにスキがあると、だらしなく見える。せっかく、コーディネイトを決めても痛恨のエラーということになります。ネクタイを緩く結ぶくらいなら、ノーネクタイの方がよほどスッキリ見えます。

ネクタイは朝しっかり結んでも、昼間動いているうちに緩むので、折を見て結び直します。ネクタイを結ぶことは、ある意味、男の特権とも言えます。だから、ネクタイが緩んでいると、男の色気が出ないのです。

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日本人とネクタイ

ネクタイの結び方にはたくさん種類があり、二重巻きや太巻きなど様々です。その中でも、日本人なら、一回巻き、いわゆるプレーンノットの上品で小ぶりな結び目が似合うと思っています。

大きな結び目は、岩のような顔なら似合いますが、日本人には少ない顔立ちです。大きな柄も日本人には似合わない。100円玉ぐらいの水玉のネクタイが似合う人を想像してみて下さい。相当顔が濃くないと似合わないはずです。

ネクタイの長さはベルトが隠れるくらいを目安にすると良いでしょう。ところが、ネクタイの長さにはバラつきがあります。特に舶来のネクタイは背の高い外国人に合わせているから日本製のネクタイよりも長い。

このため、大剣と小剣を同じ長さで結んでも、胴の下の方まで伸びてしまい、長すぎると感じることがあります。このような場合は、大剣を自分にとって理想の長さで結び、余分に伸びた小剣をパンツの中にしまい込む方がスッキリと見えます。

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同じようなネクタイを選んでも良い

女性は男のスーツや靴に無関心でも、なぜかネクタイには介入してくることが多い。鮮やかな色を選べ、種類を持て、とお節介をやきます。

でも、女性の好みに合わせようとしても限度があります。男の好みの中でバリエーションを広げれば良いのです。例えば、紺と白の配色が好きなら、その中でストライプばかり揃えないで、水玉や幾何学模様など、柄を広げて選ぶことです。

ネクタイの季節

日本には豊かな四季があります。秋から冬に向かう時は、寂しく重い気分になりがちです。そのような気分を吹き飛ばすために、日本人は古来より月見や七五三などの節句、おでんや湯豆腐などの料理に、冬ならでは楽しさを見出してきました。

洋服の着こなしも、秋冬こそ重ね着を楽しもう、と考えると前向きな気分になります。その主役はネクタイ、これが今日のお話の「結び」です。

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