ビストロ・シネトーク

BISTRO CINE TALK IN EBIS,TOKYO

文/登地勝志 Essay by Katsushi Tochi
写真/織田城司 photo by George Oda

本サイトに赤峰幸生氏が3月26日に投稿された「マンハッタンのコート」という記事に登場する1960年代のステンカラーコートは自分の中でも昔からお気に入りのアイテムのひとつです。

ステンカラーコートの着こなしが印象的な映画は、記事の中で紹介されていた「ティファニーで朝食を」はもちろんだが、私としては「ブリット」(1968年アメリカ映画)のスティーブ・マックイーンの着こなしが気になる。

アメリカのコートはアメリカ人の背丈が様々なので、身幅に対してショート、レギュラー、ロングの着丈が用意されていた。

赤峰氏が着ているステンカラーコートは、記事の写真によると42Lのサイズネームがついていることから、ジャストサイズよりもワンサイズ大きめで、着丈がロングタイプのものになる。エレガントな表情を楽しむために、あえて大きめのサイズを選ばれていたのであろう。

「ブリット」のマックイーンはアクションシーンの多い刑事役のために、エレガントさよりも動きやすさを優先してショート丈を選んでいる。いずれも、用途によって、コートの着丈を意識的に選んでいる人たちの好例である。

赤峰氏のステンカラーコートを紹介する記事の中には、衿元の金属ホックも取り上げられていて、個人的に感慨深いものがある。

「ブリット」公開当時、マックイーンのクールでタフなキャラクターに憧れ、スタイルの真似をしようと、何度も映画を観て着こなしの研究をした。この時、マックイーンが着ているコートの衿元に金属ホックが付いていることを発見して、自分にとっては無くてはならないディティールとなった。

当時はアメリカからの輸入コートは少なく、代用する日本製のコートには衿ホックが付いていなくて、物足りなさを感じていた。そこで、自分でコートの衿元に金属ホックを縫い付け、マックイーン・モデルをカスタマイズした。

同じく1960年代の映画で、コートの着こなしが気になるのは「シャレード」(1963年アメリカ映画)のケイリー・グラントだ。

この映画の中でグラントが着るコートは着丈が短めのスポーティーなタイプで、いかにも60年代らしいモダンさとシャープな印象がありながら、背中の雨よけケープはミリタリーの名残りを感じさせ、程よく男らしさがミックスしている。

このディティールを全て網羅するコートは市販されていないので、馴染みのテーラーに作ってもらった。

コートのほかに「シャレード」のグラントの持ち物として気になるのはメガネである。

スーツを着たままシャワーを浴びる有名なシーンでかけていたものだが、それ以外のシーンでは手に持ってハンカチで磨いたり、落語家の扇子のように、手振りの小道具として使っている。

スーツの胸ポケットにはポケットチーフをささないで、メガネをさしている。普通の胸ポケットではメガネが埋没してしまって見えないはずだが、画面で見るとメガネが3分の1ぐらいのぞいていることから、あえて胸ポケットを上げ底にしていたと思われる。

グラントがそこまで見せることにこだわったメガネは、いわゆる黒ぶちメガネだが、小ぶりで丸めのレンズに太めのテンプルを組み合わせる独特のデザインで、やわらかく見えながら存在感がある。

メガネをかけるようになったら絶対この形にすると思い込んではみたものの、いざ、老眼鏡のお世話になる頃に、市場を探してみると、類似するデザインは有りそうで無かった。

そこで、日本のメガネ産地、福井県鯖江市で別注した。産地の技は年々進歩しているので、同じデザインのメガネを20年間で3回作っている。

1960年代、映画は娯楽として全盛期をむかえ、素晴らしい作品がたくさん公開された。格好いい映画スターの持ち物に憧れても、庶民にとって舶来品は夢の夢で、疑似体験させてくれる、日本の製品の再現度に期待した。

舶来の服飾品が手に入りにくかった時代だからこそ、ものの本質や日本の物作りの良さを知ることができたのかもしれない。

今は、映画の中の服飾デザインを参考にしながら、日本の職人たちにカスタムメイドすることを楽しみにしている。別注した黒ぶちメガネは、「グラント・グラス」と呼んで愛用している。