茶色のカバート・コート

OLD BROWN COVERT COAT

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

ヨーロッパの街を歩いていると、その人なりに馴染んだ、いい味の着こなしをした人を見かける。

着こなしが馴染んで見える要素のひとつに色がある。音楽や味覚に個人の好みがあるように、色にも好みがある。

自分の好きな色を理解して、服を選ぶ時に意識すると、時代やメーカーが異なる服でも、コーディネイトがまとめやすく、自然と個性も表れる。

私は茶系の着こなしが好きで、機会があると茶系の服を買い足している。特に、自然の木や石、土などの表情に見られる色をイメージして選んでいる。この茶色のカバート・コートも、そのうちのひとつだ。

英国の余暇服は、屋敷の中で着る礼服にカントリースポーツ用の改造が加わることで派生して、貴族はそれを使い分けることがたしなみとされた。

カバート・コートのカバートとは英語で隠れ場や茂みの意味で、狩猟の時に獲物を追う場所がアイテム名の由来だ。

走って獲物を追いこむために、着丈はヒザより上の短めで、茂みの中で木の枝があたっても服が破損しないように、生地には丈夫で分厚い綾地が使われ、多重ステッチや隠しボタンなどの補強が加えられていることが特徴だ。

英国の街中で、狩猟用のカバート・コートを着ると、奇異な目で見られるかもしれないが、日本では少し自由な解釈を加えて着こなしを楽しんでいる。

きちんと仕立てられた礼服をルーツとしたカジュアルすぎない外観は街着にちょうど良く、ツイードジャケットやコットンパンツ、スウェードシューズなどと合わせている。

街中でもビジネスの場でスーツの上に着るコートとしては使用せず、あくまでも休日、緑の多い場所に行く時に活用している。

アイテム本来の意味や特徴を理解して生かすことも馴染んだ着こなしには、欠かせない要素のひとつであろう。

このカバード・コートは、英国カントリースポーツ用品店の老舗コーディング社が1940年代に生産したもので、10年程前にロンドンの古着屋で好みの色が目について購入した。

入手しにくい色とデザインの組み合わせに出会えることも古着の魅力のひとつだ。昔ながらの手間ひまかけた仕立てのおかげで、70年以上の時を経た今でも違和感なく着られる。

コーディング社は伝統的な着こなしをする人が減ったことから経営難に陥ったが、近年、英国人ロックギタリストのエリック・クラプトンが自国の伝統を絶やすまいと資金援助をして再建した。

クラプトンはこの他に、薬物依存症患者の更生施設も建てている。貴族階級の出身ではないけれども、富を得た者は社会に還元するという貴族文化を継承している。

同世代として、まだまだできていないことがあると感じる。共通点は生涯現役で引退がないことだ。