古本と珈琲

ANTIQUE BOOK & COFFEE IN JINBOCHO,TOKYO

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

喫茶「古瀬戸珈琲店」 CAFE “KOSETO”

18歳のころ、はじめて神保町の古本街に行った。当時住んでいた渋谷界隈から神保町までの往復は、電車賃を使うと古本代が減るので歩いていた。そのころはフランス文学に興味があり、カミュやサルトルの古本がお目当てだった。

やがて岩波ホールができて、タルコフスキーなど、大きな映画館では配給されない隠れた名作が紹介されるようになると、世も中には、こういう世界もあったのか、と思って観てきた。

こうして本屋や映画館に通うようになると、食事や喫茶も欠かせなくなり、街をめぐる楽しさも加わった。大人になるにつれて「山の上ホテル」や和菓子屋の「ささま」なども利用するようになった。

「山の上ホテル」  “HILLTOP HOTEL”

和菓子「ささま」  JAPANESE SWEET SHOP “SASAMA”

仕入れた古本の中味をいち早く見ることと休憩をかね、すずらん通り界隈のキッチンや中華料理屋、喫茶店をよく利用した。どこも個性的な雰囲気がありながら安くておいしく、一人で入れる気軽さもあった。今も昔のままの姿で続けているお店が多く、懐かしさと頼もしさを感じる。

ところが最近、こうしたお店に行列ができるようになった。昔から知る客としては首をかしげる光景だが、かつては、どこの商店街にもあった個人経営の大衆食堂や喫茶店が希少価値となり、昨今の街歩きやB級グルメブームが追い風になって注目されているのであろう。

天ぷら「はちまき」  TEMPULA RESTAURANT “HACHIMAKI”

喫茶「さぼうる」  CAFE ”SAVOUL”

古本も街角の飲食店と同じで、時の経過とともに、別の意味や価値が生まれることが面白い。

私が古本街に通うのは、古本に囲まれている雰囲気と、そこで思わぬ発見をするのが好きだからである。