WORLD PRESS PHOTO 2019 EXHIBITION TOKYO
写真・文/織田城司 Photo & Text by GEORGE ODA
◆展示概要
世界最大級の写真展
「世界報道写真展」は1955年にオランダのアムステルダムで、世界報道写真財団が発足したことにより、よく年からはじまった報道写真の展覧会で、62回目を迎える。
コンテストで選ばれた受賞作を展示するもので、世界中の約100会場を巡回。総計約400万人が会場に足を運ぶ世界最大級の写真展。今回は入賞作品、約160点が一堂に展示される。
東京展は2019年6月8日(土)〜8月4日(日)恵比寿ガーデンプレイス内「東京都写真美術館 地下1階展示室」にて開催。以降、大阪、滋賀、京都、大分を巡回する。
◆展示の見どころ
一般公開に先駆けて行われたプレスプレビューを取材。アムステルダムより来日された世界報道写真財団コンテスト・マネージャーであるアナ・レイナ・ミール氏のギャラリートークをもとに、代表作の見どころをまとめた。
背景のストーリーを伝える写真
今回のトレンドは、移民の動向を捉えた作品に秀作が多かった。政治的、経済的な理由で、より良い生活を求め、祖国を離れる決意をした人々の生き様に力強さを感じる。
大賞を受賞したのは、ジョン・ムーアの作品「国境で泣き叫ぶ少女」。カメラマンはアメリカのテキサス州、メキシコ国境に集まる移民の動向を撮影しようと、国境監視員に同行取材を申請。数ヶ月後に同行許可が出た2018年6月12日、この写真を撮影した。
国境監視員は移民グループに出会い、ひとりひとりを並ばせ、身体検査をはじめた。写真中央の女性はホンジュラス出身で、娘は歩きはじめて1ヶ月ほどの少女だった。
国境監視員は母親の身体検査をするため、抱いていた娘を下ろすように指示。母親と引き離された娘は急に泣き出した。その表情から極度の恐怖が伝わる。この後、移民はトラックに乗せられ、移民センターに収容された。
当時、トランプ政権は移民に不寛容で、移民センターで親子を分離して収容する措置を行っていた。この写真が公表され、ソーシャルメディアで広まると、トランプ大統領に世論の批判が集中した。トランプ大統領は6月20日、親子を分離して収容する方針を撤回した。
このことは、1枚の写真が伝えるストーリーが、世界や政治に対し、いかに大きな影響を持ち得るか、ということを示した。
カメラマンは今年2月、移民センターを訪ね、母子が一緒にいることを確認した。しかし、母子のアメリカ移住は審査中のままだった。収容所の待遇改善はともかく、この写真が母子が望む移住の役に立ったのか、まだ分からない。それゆえ、カメラマンも大賞を素直に喜べない心境にある。
生活感を深掘りして伝える写真
この組写真を撮影したカメラマンは2018年10月、中米の移民がアメリカの国境を目指すキャラバンに数週間同行した。
移民の数は約7000人。そのうち子どもは約2300人。国籍はホンジュラス、ニカラグア、グアテマラなど。少人数の移動は道中で襲われる危険を伴うことから、ソーシャルメデイアの呼びかけで集まった人々である。過去数年で最大のキャラバンになった。
カメラマンは移民が朝5時に起き、灼熱の太陽を避けて移動する姿や水浴する姿、バンドの演奏を楽しむ姿などを写し、組写真にまとめた。
これは「スロー・ジャーナリズム」の好例といえる。ひとつの瞬間を捉えるのではなく、長時間かけて人々の生活を深掘りし、伝えている。
問題解決を伝える写真
オランダで飛翔中のフラミンゴがホテルの窓に激突し、大けがを負った。カメラマンは野生動物のリハビリテーション・センターがフラミンゴを治療し、保護する過程を写し、組写真にまとめた。
関係者はフラミンゴがリハビリ中、人間に慣れてしまったことで、野生に返すと生存できないと判断。そこで、フラミンゴを飼育し、野生動物保護の重要性を地元住民に訴える大使に任命した。現在フラミンゴは関係者と一緒に学校などを訪問している。
これは「ソリューション・ジャーナリズム」の好例といえる。問題提起をするだけではなく、問題に直面した人々が、どのような問題解決方法を導き出したのか、ということまで伝えている。
◆展示作品の印象
生命の尊さ
展示されている写真はどれも描写力が鮮明だ。鮮やかな色彩と細部の再現性、陰影のバランスなどが見事で、臨場感と迫力があり、作品としての美しさもある。
写された場面は、どれも映画のワンシーンのように非日常的で興味をそそられる。写真脇の解説を読み、背景の世界情勢を知ることで、写真がより一層の迫力を帯びてくる。
たくさんの報道写真を見て感じることは、生命の尊さである。様々な状況下で生き抜く人間や動物の姿と、その場に居合わせ、それを伝えようとしたカメラマンの魂に感動する。