コットンスーツの楽しみ

監修/赤峰幸生
構成・写真・文/織田城司

All About My Cotton Suit
Directed by Yukio Akamine
Edit,Photo,Text by George Oda

初夏の装いはコットンスーツが旬、と語るファッションディレクター・赤峰幸生氏に、その成り立ちと着こなしを、豊富な資料とともに解説していただきました。モノづくりやセールストークに役立つ情報満載の特集です。

コットンスーツを着て自社の書棚の前に立つ赤峰幸生氏

コットンスーツのコレクション

スーツを仕立てて50年ほど経ちました。その間、流行を追わず、形はほとんど変えませんでした。ただし、季節は追いかけました。スーツを季節に合わせて着こなしたい、という想いが強く、様々な素材でスーツを仕立てました。

夏が近づくと、麻やコットンを使ったスーツの出番が多くなります。中でもコットンは、初夏と晩夏に丁度良い素材だと思っています。

とはいえ、スーツといえばウールばかりで、コットンスーツに馴染みのない方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、コットンスーツについてご説明しましょう。

まずは、私が所有するコットンスーツの代表的なものを紹介します。

 

「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製

「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製

このコットンスーツは、フィレンツェの名仕立て師、アントニオ・リベラーノさんの工房で20年前に仕立てたものです。20年間着込んで、コットンの味がよく出ています。

「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製 内ポケット上のネーム
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製。製造年を記した内ポケット中のネーム
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製。注文時に付け加えたチケットポケット
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製。パンツの開閉はジッパーの金属がコットンの素材感と合わないと思い、天然のナットボタンを使ったクラシックな仕様を踏襲。
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製。袖口
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド1997年製。袖口に見る着込んだコットンの毛羽立ち

 

「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド2005年製

「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド 2005年製

同じくリベラーノさんの工房で2005年に仕立てたものです。1997年に仕立てたコットンスーツの二代目として「着込み」を始めた12年物で、今が丁度良い「着ごろ」です。仕様は前回とほとんど同じ。チケットポケットを除いて、よりシンプルにしました。

「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド 2005年製 内ポケット上のネーム
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド2005年製。製造年を記した内ポケット中のネーム
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド2005年製。ポケット
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド2005年製。パンツ開閉部
「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド 2005年製 袖口

 

「イザイア」既製服 横浜信濃屋別注モデル

「イザイア」既製服・信濃屋別注モデル

6、7年前に横浜信濃屋さんで衝動買いしたイタリア製「イザイア」の既製コットンスーツです。私の場合、スーツはどこで仕立てる、と決めている訳ではないので、気に入ったものを見つけたら柔軟に対応しています。

私の場合、コットンスーツはほとんどシングルで仕立てます。ダブルだと、柔らかいコットンの特性で、ウエストの綺麗なドレープが出ないことが多いからです。こちらのコットンスーツは試着して、ダブルの形が綺麗に見えたから購入しました。

生地は縦糸にベージュ、横糸にオレンジを使った綾織のソラーロ。全体的に新品の面影が残り、まだ「着込み」が足りないと感じています。

「イザイア」既製服・信濃屋別注モデル。内ポケット下のネーム
「イザイア」既製服 信濃屋別注モデル ラペル
「イザイア」既製服 信濃屋別注モデル 袖口

 

「Y・アカミネ」既製服 プロトタイプ

「Y・アカミネ」既製服プロトタイプ

ちょうど2000年頃、自身の既製服ブランドとしてセレクトショップで展開していた「Y・アカミネ」のプロトタイプです。このモデルはアメリカンを意識して、フラップポケットや幅広の飾りステッチを取り入れたものです。素材ネームに見られるBOSSI社は、今はなきイタリアの老舗綿生地商です。

「Y・アカミネ」既製服プロトタイプ 内ポケット下のネーム
「Y・アカミネ」既製服プロトタイプ。素材ネーム
「Y・アカミネ」既製服プロトタイプ。ポケット

 

「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド

「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド

現在、自社でパーソナル・オーダースーツを受注しているブランド「アカミネ・ロイヤルライン」のモデルのひとつで、イタリアンテイストをベースにしたものです。

コットンスーツの色は、海の砂をイメージしたベージュがコットンの素材感と合うのでおすすめです。ヨーロッパ物のコットン生地は、柔らかすぎるか、コート用の硬いものの両極端で、私が好むタッチとは異なると感じています。このため、日本の伝統的な綿生地産地、静岡県浜松市の機屋に入り込んで、納得のいくタッチの生地を直接選んで揃えています。

「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド。内ポケット下のネーム
「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド 前ボタン
「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド 袖口
「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド パンツのベルトレス仕様

イタリア人はなぜコットンスーツが好きなのか

コットンスーツに親しむようになったきっかけは、青春時代に観たイタリア映画や、実際にイタリアで見たイタリア人からの影響です。イタリアでは、コットンスーツを着た人を多く見かけます。このコーナーでは、イタリア人がコットンスーツ好きの背景を解説します。

恵比寿ガーデンシネマで開催されたイタリア映画祭のチラシ
恵比寿ガーデンシネマ ロビー
恵比寿ガーデンシネマ 2017年3月15日『気ままな情事』上映後のトークショーでイタリア人の着こなしを解説する赤峰氏

現代の紳士服のルーツは英国です。コットンスーツも、英国人が南方の植民地を統治するために開発したものです。夏でも涼しい英国では、バカンスの時期は太陽を求めて南欧で長期滞在する人を多く見ます。コットンスーツはそんな人たちのリゾートウエアとしても広がりました。このため、英国人は英国の街中でコットンスーツを着ることは場違いと考えていました。

そんな英国人がイタリアのリゾートでコットンスーツを着る姿を横目で見ていたイタリア人は「あのスーツいいな‥」と思い、コットンスーツのリラックス感や利便性のみに注目して、英国の礼節や習慣などお構いなして、ちゃっかりイタリアの街着にしてしまったのです。

イタリアは英国よりも南に位置して、温暖だったこともあります。なおかつ、街並みの至る所に古代遺跡が残り、仕事といえば、世襲制の中小企業がほとんど。素朴でのんびりした空気が流れています。そんな気候風土に、軽くて気取らない印象のコットンスーツが丁度合ったのでしょう。

次のコーナーでは、イタリア人の生活に根ざしたコットンスーツが見られる映画を紹介します。

恵比寿ガーデンシネマ 2017年3月20日『無防備都市』上映後トークショーでイタリア人の着こなしを解説する赤峰氏
恵比寿ガーデンシネマ イタリア映画祭の期間中ガラスケースに展示された赤峰氏のイタリア映画本コレクション

コットンスーツを学ぶ!イタリアを舞台にした映画5選

『あゝ結婚』

1964年イタリア・フランス作 監督/ヴィットリオ・デシーカ 出演/マルチェロ・マストロヤンニ、ソフィア・ローレンほか ナポリの商店街を舞台に、対戦中に出会った製菓会社オーナーと内縁の妻の20年間を描いたドラマ。

マルチェロ・マストロヤンニ演じる製菓会社社長は、戦後始めた事業の成功を誇示するために、イタリアではステイタスとされていた英国物のスーツや靴で着飾っています。会社は内縁の妻に任せ、ロンドンで買物三昧。

内縁の妻を演じるソフィア・ローレンは、夫に内緒で隠し子を3人養い、立派な社会人に育てました。そのひとりは手袋店の販売員として働き、ベージュのコットンスーツを着ています。街中とはいえ、銀行員や弁護士ではないから、軽めのスーツスタイルでも良いのです。着こなしも白シャツとブルーの水玉ネクタイを合わせています。

マルチェロの成金姿と、青年の爽やかなコットンスーツ姿を対比させることで、自然とソフィア・ローレンを応援してしまう演出。デシーカ監督の名人芸を感じる着こなしでした。

 

『ナポリ湾』

1960年アメリカ作 監督/メルヴィル・シャベルソン 出演/クラーク・ゲーブル、ソフィア・ローレンほか ナポリ湾の浮かぶカプリ島を舞台に、アメリカから来た弁護士と現地の女性との恋を描いたロマンティック・コメディ。

クラーク・ゲーブル演じるアメリカの弁護士がナポリで客死した兄の財産整理のためにナポリ駅に着くと、現地の弁護士を演じるヴィットリオ・デシーカが出迎えます。映画監督のデシーカは元々俳優でダンディでしたから、たまに俳優としても映画に出ています。

この時、ゲーブルとデシーカのスーツの違いが、アメリカとイタリアの着こなしを見事に表しています。ゲーブルはグレーのスーツに白いボタンダウンシャツと無地タイを合わせ、胸ポケットにチーフを入れていません。

一方、デシーカはベージュのコットンスーツに白いワイドカラーシャツとシルバーグレーの小紋タイを合わせ、胸ポケットから白いポケットチーフが無造作に溢れています。

ゲーブルのスタイルはいかにもビルが立ち並ぶ都会のオフィスウエアといった風情です。ところが、ナポリ駅から一歩出ると、そこは素朴な庶民の街。グレーのスーツが浮いて、コットンスーツが馴染むことがわかります。

ゲーブルはナポリからカプリ島に渡ると、スーツを着る人はほとんどいなくなりました。ゲーブルもスーツを脱いで麻のシャツに着替えます。だんだん自然回帰に目覚めるビジネスマンの姿を、衣装の変化で見事に表現しました。

8 1/2  (はっかにぶんのいち)

1963年イタリア・フランス作 監督/フェデリコ・フェリーニ 出演/マルチェロ・マストロヤンニほか 仕事のプレッシャーや幼児体験など、男の悪夢や妄想を映像化した芸術大作。

フェリー二が得意とした、強い女とダメ男の構図が見られます。でも、これは映画の中だけではなく、イタリア人気質の象徴でもあるのです。だから、イタリア男はスーツを着るとカッコイイけど、どこかに甘ったれ坊やの面影が残る。そこがまた女性にウケる。ズルいよね。

この作品で映画プロデューサーを演じる脇役も、白いコットンスーツを着ているけれど、柔和な顔で威厳が無い。いかにもフェリーニらしいユルいキャラクターで大好きでした。たいていの人は主人公のマルチェロ・マストロヤンニのダークスーツ姿に憧れるけど、私は白いコットンスーツに憧れて、初めてスーツを仕立てに行きました。

 

■『太陽の下の18才』

1962年イタリア作 監督/カミロ・マストロチンクエ 出演/カトリーヌ・スパークほか ナポリ湾に浮かぶリゾート・アイランド、イスキア島でひと夏のバカンスを過ごす若者たちをコメディタッチで描いたアイドル映画。

この映画に出てくる青年たちは、私と同世代です。公開当時に等身大で観て、太陽族でにぎわう湘南も似たようなものだと思いました。ただ、違う点はイタリアの青年はバカンスにスーツを持って行くことです。昼はTシャツに短パン姿だけれど、夜はスーツを着てホテルのダンスパーティーに出かけます。理由など無く、社交場で着飾るのは、ヨーロッパの伝統だからです。舞踏会のワルツがダンスパーティーのツイストに変わっただけです。

そんな青年たちが着るスーツはベージュの麻かコットン。都会のオフィスと同じものではありません。お洒落とか流行ではなく、これも親の代から続く伝統なのです。コットンスーツに合わせるインナーはネクタイばかりでなく、ドイツから来た青年はブルーのポロシャツを合わせていて、そんな着こなしもアリだな、と感じました。

 

『ニューシネマ・パラダイス』

1989年イタリア・フランス作 監督/ジュゼッペ・トルナトーレ 出演/フィリップ・ノワレほか 街の映画館の栄枯盛衰を通して描く庶民の戦後史。

老映写技師が小学校の卒業資格を取るために、小学校の教室で子供と一緒にテストを受ける場面があります。この時、試験監督をする若い先生はコットンスーツを着ていました。ネクタイと一緒に合わせる白シャツはボタンダウンです。ヨーロッパの伝統文化にアメリカ文化がブレンドされた着こなしです。

この場面は、戦後間もない頃の設定です。イタリアは大戦中、アメリカと戦っていました。でも、終戦をむかえると、大衆はすぐアメリカ文化に憧れました。それは、日本も同じだったと感じる着こなしでした。

コットン素材について

赤峰幸生氏がオフィスの庭で栽培した綿花

コットン素材の基礎知識は、インターネットでも多く紹介されているので、ここでは割愛します。一般的には、肌触りが良い、吸水速乾性に優れる、などの特徴が挙げられます。私が魅力に感じるのは『味出し』です。コットンの繊維はウールや麻よりもやわらかく、早く味が出てきます。ウールのスーツは10年以上着込まないと味が出てきませんが、コットンスーツは頻繁に着ていれば3年ぐらいから味が出てきます。

コットンの繊維は、着用の摩擦が加わるうちに、笹くれ状の変化が現れます。これが生地を毛羽立たせ、味の素になります。生地の表面にできた細かい毛羽は、パウダーをまぶしたように白っぽく発色して、フォルムやシワの陰影をより深いものにします。手触りはサラサラとしたドライタッチで、毛羽を撫でる滑らかさもあります。

ただし、毛羽は着用を繰り返すと、どんどん抜け落ちていきます。やがて糸が痩せて切れると、生地に穴が開いてきます。ジーンズで経験のある方もいるでしょう。こうなると寿命です。

このため、ある程度味が出たら、その後は着用回数を減らして味を温存するほうが良いでしょう。パンツが先に痛んでくるので、仕立てる時に2本揃えておけば、よりスーツが長持ちしたな、と後悔しています。

次に、コットンスーツ用生地の代表的な織りを紹介しましょう。

ポプリン

ポプリン

縦糸と横糸の打ち込み本数を2対1の比率に設定して織った生地で、しっかりしています。ブロードとも呼ばれるシンプルな基本素材で、コットンスーツに使う生地の中では、最もエレガントです。生地に使う糸の太さや撚り、加工によって肉厚やタッチのバリエーションがあります。

 

オックス

オックス

糸を2本引き揃えて織った生地で、粒が大きく、ザックリした表情があります。プレスをしてもシャープな折り目が付きにくいことから、スーツには不向きと思っています。ジャケット単品ならばアリです。

 

ツイル

ツイル

コートやチノパン、ジーンズでお馴染みの綾織り。丈夫で肉厚感があります。縦糸が浮き出る距離がブロードよりも長く、光沢感があります。その分、ダメージも受けやすく、糸切れによる穴あきが起きやすいとも言えます。斜めに織っているため、糸の打ち込みが甘いと、着用や洗濯を繰り返すうちに生地が斜交して歪んでくることもあります。このため、ジーンズと同じく、最初はしっかりした生地を選んで、着込んで馴染ませることが理想です。

 

ソラーロ

ソラーロの平織り

ソラーロとは、イタリア語で太陽の生地という意味です。縦横異色の糸で織った織物で玉虫効果が見られ、国によってはサンクロスとも呼ばれています。平織りと綾織り、どちらにも存在する糸使いです。私の場合は、ソラーロありきでコットンスーツを選ぶことはなく、パッと遠くから見て、全体の色感が気に入って、結果的にソラーロだったという選び方がほとんどです。

コットンスーツの着こなし

赤峰氏が収集した1950〜60年代のフランスのメンズ・ファッション誌『ADAM』

着こなしや服づくりの着想は、映画に加え、古雑誌を参考にしています。特に好きな雑誌は、今はなきフランスのメンズ・ファッション誌『ADAM』です。中でも1950年代から60年代にかけてのものはカラーのイラストが豊富で、見ているだけで楽しくなります。配色もラテン系特有の明るく華やかな色彩感覚で魅力でした。

このため、今から20年ほど前、パリの古本屋に自分が集めた『ADAM』のバックナンバーリストを渡し、歯抜けの号が入荷したら取り置きしてもらい、次の出張時に引き取りながら、のべ100余冊揃えました。

フランスの雑誌『ADAM』1958年版より

当時の雑誌は限られた富裕層向けに作られていたので、仕事や社交、余暇の場で、どのような着こなしをすべきか、ということが、豊富な図版とともに丁寧に解説されていました。スーツやジャケット、スポーツウエアといった、紳士の基本アイテムが、どのように発展したかがよくわかります。

もっとも魅力的なのはファッション・イラストです。昔はカラー写真の技術が発達していなかったので、着こなしを伝えるためにイラストを多く使っていました。私は着こなしを考える時、色の組み合わせを軸にするので、写真よりもイラストの方が参考になりました。

イラストはイラストレイターがあらかじめ色彩計画を持ち、靴下やポケットチーフの色まで丁寧に、見やすく着色していました。写真だと細部が影になって、わかりにくい場合があります。モデルを使った写真は人物が先に見えるけど、イラストだと顔を省略して描くから服が際立って見えることも魅力でした。

そんな、ファッション・イラストを参考に、コットンスーツの着こなしを紹介しましょう。

 

スーツとネクタイ

アメリカの雑誌『APPAREL ARTS』1937年版より

これは、ビーチを歩くスタイルとして紹介されていたものです。おそらく、高級リゾートホテルのプライベート・ビーチなのでしょう。コットンスーツのVゾーンにネクタイを合わせているけれど、ビーチだから思いきり色で遊んでいます。そんなスタイルをイメージして、海のブルーや太陽のレッドを取り入れて着こなしました。リゾートを意識して作られたネクタイは、日本ではほとんど見ることができないので、ヨーロッパに行った時にまとめ買いしています。

コットンスーツは「リべラーノ&リべラーノ」カスタムメイド2005年製
大胆な色柄とバスケット状の織りでリゾート感あふれるネクタイはパリの「シャルべ」で購入したもの。バカンス用のネクタイも置くのがヨーロッパの老舗。ライトブルーのシャツは「アカミネ・ロイヤルライン」で仕立てた。

 

スーツと蝶ネクタイ

フランスの雑誌『ADAM』1960年版(左)1958年版(中・右)より

リゾート・ホテルの夜会用スタイルで、コットンスーツに蝶ネクタイを合わせています。こういう発想は日本になく、新鮮です。意外な着こなしに出会うのも古雑誌の魅力です。今なら、友人宅の気軽なパーティーに使えそうなスタイルです。リゾートを意識したカラフルな蝶ネクタイは日本に少なく、ネクタイと同じく、ヨーロッパで揃えています

「アカミネ・ロイヤルライン」カスタムメイド・コットンスーツにブラウンの蝶ネクタイとワインカラーのリネンシャツを合わせる

 

スーツとシャツ、カットソー

フランスの雑誌『ADAM』1950年版より

ウールのスーツにノーネクタイだと間が抜けて見えますが、コットンスーツだとノーネクタイでも違和感なく見えます。綿同士ということで、ポロシャツとも馴染みます。ポロシャツの色は、海に見るブルーやネイビー、太陽に見る赤やオレンジ、砂に見るブラウン、松の葉に見るグリーンなど、ビーチの色からひろうとコットンスーツと馴染みます。

コットンスーツは「リベラーノ&リベラーノ」カスタムメイド2005年製
着込んだグリーンの長袖ポロシャツは「ラコステ」。オリーブのペイズリー柄ポケットチーフは「リベラーノ&リベラーノ」
靴はロンドンのジャーミン・ストリートにある「ニュー&リングウッド」

 

スーツのセパレイト

フランスの雑誌『ADAM』1954年版(左)1958年版(右)より

コットンスーツはバラして着ても、単品のアンコンジャケットやチノパンのように見えるので違和感がありません。様々な組み合わせに使えるので、旅先でも重宝します。注意すべきは、合わせる服の厚み。上着やパンツの厚みと上手くバランスをとることを意識しましょう。

「リベラーノ&リベラーノ」のコットンスーツ・カスタムメイド2005年製のパンツを使った着こなし
ネイビーのコットンジャケットは「リベラーノ&リベラーノ」のカスタムメイド。白い長袖ポロシャツは「ラコステ」
靴はイブ・モンタンが「エルメス」のエスパドリーユを履く姿に憧れて購入した同モデルの色違い
赤峰氏が憧れたイブ・モンタンが「エルメス」の白いエスパドリーユを履く写真。踵から甲にかけて紐で結ぶ仕様

楽しむ時に着るスーツ

今の日本で、コットンスーツはほとんど浸透していません。一部の業界人が着用しているくらいです。そうかといって、オフィス街で働くビジネスマンがコットンスーツを着たら良いとは思いません。元がレジャーウエアだからです。

問題はそこにはなく、日本人の大半が『スーツ・イコール・オフィスに着ていく服』という観念しか持っていないことです。だから、平日は無彩色のダークスーツで通勤して、休日はTシャツに短パンという両極端な格好しかしない。休日に着るスーツがあることも知っていただきたいのです。そのひとつがコットンスーツです。

戦前の日本人は英国文化で育ったから、そのことを知り、麻やコットンのスーツを着こなす人が多かった。戦後は、アメリカの合理主義が経済や文化の中心になると、ヨーロッパの伝統文化はいつの間にか忘れ去られ、制服的なスーツとラフなスポーツウエアばかりになってしまったのです。

確かに、海の家や動物園でコットンスーツを着ても、浮いてしまうかもしれません。でも、街中の美術館や博物館、その帰りに立ち寄るレストランでの食事には丁度合うと思うのです。無論、リゾートホテルや海外で活躍することは言うまでもありません。コットンスーツがあれば、着こなしは豊かになり、休日はより楽しくなるのです。