ITALIAN DINNER PARTY Chapter 1
写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda
服飾ディレクターの赤峰幸生氏は1月16日、「クラッシックな装いを極めるには、ドレスアップの場を作ることも必要」として、都内のイタリアン・レストランでディナーパーティーを開きました。
今回のテーマは「ギャング・オブ・ローマ」。出席者は、かつてイタリアのマフィアが着飾ったことをイメージした着こなしで、広尾の老舗イタリアン・レストラン「ラ・ビスボッチャ」に集まり、ローマにあるイタリア共和国大統領官邸、クイリナーレ宮殿のエグゼクティブシェフ、ファブリッツィオ・ボカ氏を招聘したコース料理とともに、伝統を語りました。
パーティーに先立ち、赤峰幸生氏は「クラシックは、普通が格好いいということ。これを、それぞれの立場で継承していただきたいと思って、お集まりいただきました。」と挨拶しました。
この「普通」とは、例えば毛筆で楷書が書けるとか、昔は誰もが当たり前にやっていたことだそうです。このようなことを着こなしやモノづくりはもちろん、衣食住全般で考える。イタリア料理であれば、何が伝統なのか正しく知り、味わおうというものです。
コース料理がひと通り出ると、本場の味わいを堪能した出席者から、シェフを呼んで賛辞を送ろう、という声が上がりました。会場にボカ氏が現れると、出席者は拍手をして「ボーノ!ブラボー!」など、知っている限りのイタリア語の褒め言葉を並べました。
ボカ氏は笑顔で会場を去ったかと思うと、すぐまた現れました。「僕はシェフなので、僕の料理を褒めるなら、厨房で実際に作っているスタッフを褒めて欲しい」と申し出て、スタッフを全員連れて来たのです。再び会場に賛辞の歓声が飛び交いました。
作り手と顧客の顔がお互いに見え、反応が直に伝わる関係。まるで劇場のアンコールのような光景でしたが、これがローマの「普通」なのかもしれません。
出席者のスピーチの中で、紳士服テイラーbatakのディレクター/モデリストの中寺広吉氏は、伝統のモノづくりについて、次のように語りました。
「私は以前、赤峰さんから『紳士服のクラシックとは、普通のことを普通にやることだ。ちゃんとやっているか?』と問われると、『普通のことは、ちゃんとやっています』と答えました。しかし、今、できているかというと、不安があります。
私は民藝品が好きです。たたずまいに美しさがあり、説明などいりません。ところが、民藝品は芸術品ではありません。もとは無名の職人が庶民のために作った日用品です。昔は普通に作られていたものが、いつの間にか無くなり、特別になっているのです。
紳士服のモノづくりも、昔は普通だったことが失われつつある。何が普通かを伝えないと、いずれ誰もわからなくなってしまうでしょう。
でも、それを人任せにしていても始まりません。私はこのような場は苦手でしたが、自ら語らなければならないと思い、出席させていただきました」
かつて、民藝運動を提唱した柳宗悦は、世の中全体が近代化に進み、伝統的なモノづくりが失われていく風潮を危惧していました。今、その想いが見直されていることを、改めて感じたパーティーでした。