茶革の手帖

Brown Leather iPad Case

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

これは一見手帖のようだが、アイパッドケース。アイパッドは市場投入当初から使い始めた。昨年はアイパッド・ミニが発売となったが、頻繁に端末機器を活用しないユーザーとしては、旧アイパッドの大きな画面の迫力も捨てがたいと思っている。なおかつ、こんな味のあるケースに収めれば存在感がある。


この茶革のアイパッドケースは、会う人から評判が良く、問い合わせがけっこうある。これは英国で1772年に創業した老舗毛織物商フォックス・ブラザーズ社から贈られたものだ。

昨年2月に同社を訪問した時、資料室に飾ってあるのが目についた。企業PRのためにデザインして、ごく少量英国内で作らせたものだそうだ。よくできているので賞賛したところ、同社の社長が昨年秋に来日した時に、わざわざ持参してお贈りいただいた。


ケースに書かれたDAの署名は社長のダグラスさんのイニシャルだ。上蓋の内側には機材の画面保護用にグレーのフェルト地がはられ、同社の織ネームが縫い込まれている。

素材の本革はサドルレザーとよばれる乗馬の鞍用の伝統製法によるもので、手になじむ持ち感と自然な色ツヤがあり、使うのが楽しくなる。市販のアイパットケースは機能的なデザインのものばかりで、温もり感のあるものはほとんど見かけない。

アイパッドを作ったアメリカの技術は認めつつ、英国の伝統工芸品で包んで、自分たちのものにしてしまう発想に英国人らしい気概とユーモアが感じられる。

このケースは残念ながら非売品だが、日本人が参考にすべきは、この物を単純に複製するのではなく、こういう事をするセンスを見習うべきであろう。