夏のパーティー

SUMMER PARTY AT RISTORANTE LA BISBOCCIA HIROO,TOKYO

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

例年より早く梅雨が明け、夏本番になった7月初旬、広尾のイタリアンレストラン「ラ・ビスボッチャ」が開店20周年を迎えた。

同店で記念パーティーが開かれ、開店当初にコンセプト作りを手がけた縁でお招きいただいた。

パーティーの招待客が口々に「古さを感じない、20年経ったと思えない」と語る声が印象的である。当初から時代のトレンドを追うのではなく、イタリアのクラシックなレストランを日本で再現することをコンセプトにしていたので、本物が持つ普遍的な価値が、時代を越えて受け入れられているのであろう。

イタリアらしいサービスを再現するため、開店当所からホール係にはイタリア人を何人か起用してきた。中には、開店当初から20年間勤続しているイタリア人もいる。彼らの喜びの声を聞くと、感慨深いものがある。

うつろいの早い現代の東京で、新しいレストランを20年続けることは並大抵のことではない。とはいえ、まだ20年である。若くて味が出ていない段階だ。これからのさらなる20年に期待したい。

このパーティーの装いに選んだのは麻のスーツである。

わが国が洋装を取り入れた明治の頃は、英国から紳士服の基礎を学び、夏は麻のスーツを着ることがジェントルマンのスタイルとして伝来した。

当時の日本の階級層は、夏になると必ず麻のスーツを着ていた。中には、いつもきちんと見えるようにと、一度に6着ほどオーダーしてメンテナンスする人もいたそうだ。

当時から麻のスーツに使われている素材は、アイリッシュ・リネンとよばれる北アイルランド産のリネン麻で、スペンス・ブライソン社という老舗生地商のものが世界で愛用されてきた。

今回のパーティーで着用した麻のスーツは、スペンス・ブライソン社のベージュの生地を日本で仕立てたものだ。

ベージュの色目は砂のような茶系ではなく、イタリアの民家の壁や小麦粉、チーズに見られる黄味がかった色目で、明るくて、軽さのある雰囲気が気に入っている。

靴はロンドンのニュー&リングウッドで購入して、30年ほど履きこんだ茶靴を合わせた。

自分にとって麻のスーツで印象深いイメージは、明治の貴族というよりも、1963年に公開されたイタリア映画「太陽の下の18才」である。バカンスで南イタリアのイスキア島に集まる若者のひと夏を描いた青春コメディだ。

イタリア映画「太陽の下の18才」より ITALIAN CINEMA “DICIOTTENNI AL SOLE”

昼間は水着姿の若者たちも、夜のホテルのパーティーではスーツをきちんと着こなす姿に、ヨーロッパらしい伝統が感じられ、格好良いと思った。

B級な作風は、今観るとナンセンスに感じるかもしれないが、公開当時、戦後の貧しさが残る世相の中では、陽気な若者たちのバカンススタイルに憧れを感じた。