TOSHIRO MIFUNE & WHITE SHIRT
写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda
戦後、欧米でいち早く人気となった日本人男優は三船敏郎であろう。数々の黒澤明監督作品で演じた侍姿が強烈な日本人像として人々の脳裏に刻まれている。洋装では、同じく黒澤明監督の「天国と地獄」が印象に残る。
この映画で三船敏郎は幼児誘拐事件に巻き込まれる製靴会社役員を演じた。映画の冒頭に、質実剛健な物作りをする三船敏郎が自宅を訪れた反対派閥の役員と商品政策について激論を戦わせる場面がある。
反対派閥役員の主張は、女にとっての靴はアクセサリーであり、帽子やハンドバッグと同じ。我が社の主力商品は実用の観点からの古いデザイン、高いコスト、丈夫すぎる靴で、売れ行きはさっぱり。
これに対して三船敏郎の反論は、靴は女の目方を乗せて歩く。我が社が作ってきたのは、少なくとも、まともな靴だ。ところが君たちはこんなゴミみたいな靴を作りたいという。こんな靴はひと月もたたぬうちにバラバラになる。こんなガラクタに社名はつけたくない。私は靴が好きで好きでしょうがない。私の生き甲斐。いいかげんな仕事はできない。俺は俺の理想の靴を作る。歩きやすく丈夫で、しかもデザインの良い靴を作る。長い目で見れば、そのほうが本当の利を上げる。
このシーンで三船敏郎は白シャツにベージュのカーディガンを羽織って熱弁をふるう。洋装だが三船敏郎が演じると、侍の立ちまわりのような迫力がある。物作りに熱い日本の職人魂を見事に演じた。
この映画が公開された1963年の高度成長時代から半世紀以上経過した現在、消費は使い捨ての流行ものに飛びつく傾向から、ようやくまともな商品が見直される傾向に移行しつつあるが、白シャツが日本人に似合うことに変わりがないと感じる場面だ。