江戸前を教えてくれた喜寿司

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/織田城司 Photo by George Oda

人形町の「喜寿司」は、江戸末期に、初代油井喜太郎が両国橋の袂、薬研堀で創業し、大正12年にニ代目貫一が花柳界芳町(今の人形町)に移転して、今は3代目に当たる。

私の母方の家業は本所、深川の竹屋だったとか。どこか江戸っ子の血が流れている。「夜越しの金は持たない」をカッコ良く思っていた。

喜寿司は江戸前のお寿司を教えてくれた。それは30年も前の事。一見客であった私に親切に江戸前の本質を語ってくれた。漬け込みのハマグリ、煮イカ、卵焼き、どれをとっても“仕事をする”とはこういう事か教わり、すっかりヤミつきになってしまった。

職人たちの息の合った仕事振りを見ながら仕事とはこうでなければを感じ、何よりもオヤジと私の一対一でのやりとりこそ、商売の原点と感じつつ、いつものワサビ入りのかんぴょう巻きをいただいて店を後にした。