三州屋

文/赤峰幸生 Essay by Yukio Akamine
写真/平田元吉 Photo by Motoyoshi Hirata

三州屋に私が通いはじめたのが30年程前、神田須田町でアパレルのグレンオーヴァーをやっていた頃出掛けたものだった。

ある時ふと目についた真白いのれんに三州屋の印、あまり期待せずに入ったのが最初だったと思う。店内は決して広いとは言えないが、びっしりのお客、相席で座るとすぐさま目に入ったのが分厚い無垢板のテーブル。壁にはお品書きがびっしり。即座に頼んだのが、ぶりのあら煮とあさりの酒蒸しとしらすおろしと白ご飯と記憶している。これぞ正真正銘の大衆江戸文化が生きづいている店だと確信し、それ以来病みつきとなった。どれをとっても美味しいが私は煮物が特に気に入っている。

イタリアフィレンツェの友、アントニオリベラーノを連れて行った時は座敷しか開いておらず、彼も旨いうまいでいただいていたら、足がしびれ、最後は立ち食いで食べていたのが忘れられない思い出だ。店のおば様はテキパキ頼まないと怒られそうでべらんめーな口調もまた江戸の気分を掻き立ててくれる。