中庭のビーフカツサンド

INODA COFFEE STORE SINCE 1940, KYOTO

写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda

作り手の極道心が顧客を未知の世界へと誘う。

京都のイノダコーヒは、古くからコーヒーという西洋文化を日本で提案することの研究を続けてきた。

その精神は店舗設計にも見られ、現代の建材を用いて改築しながら、むかしのディティールを残した和洋折衷デザインに懐かしさとあたたか味を感じる。

コーヒー色の暖簾の和洋折衷感も面白く、写真に収めようとしたけれども、風でめくれるので四苦八苦して、気がついたら来店客の足止めをしてしまっていた。

私の後ろで撮影が終わるの待っていた初老のヒゲの紳士は地元の人らしく「どうぞ、ごゆっくり」と言いつつ苦笑していた。さすが世界の観光地、観光客には寛大である。

店内に入ると、ものの本で中庭が気持ち良いと読んだことがあるので店員に案内してもらった。

噴水のある中庭は、敷地をすべてテーブルで埋めないところにゆとりが感じられた。先ほどのヒゲの紳士はすでに中庭の席に座り、店員に「めっきり寒くなったね。ビーフカツサンドと冷たいコーヒー」と注文しているのが聞こえた。私はヒゲの紳士から距離をおいて席にすわり、つられてビーフカツサンドを注文したけれども、コーヒーだけは熱いのにした。店員が去った後は噴水のせせらぎだけが響いた。

しばらくして運ばれてきたビーフカツサンドは薄めのパンにきめ細かいキツネ色の焦げ目がついて、たっぷりとソースがシミている。なおかつ、パンに浸透しきれないソースは鋭利な刃物で切られた断面をタラリとこぼれ落ち、牛肉の赤みを絶妙な具合で覆う。

あれこれ手を広げてキャベツなど中途半端に入れないで、肉汁たっぷりのぶ厚い牛肉と濃厚なソースという、注力を明確にしたバランスと丹念な仕上げに永年かけた試行錯誤の蓄積が感じられ、サンドウィッチとはいえ、予想以上の満腹感があった。

コーヒーは口の中で刺さるような感覚がなく、飲み口がまろやかでスムーズなことが印象に残った。

食後に中庭を撮影していると、ヒゲの紳士がテーブルの上に置いた英文書類を見て
沈思黙考している姿が目についた。

液晶画面の上で指を滑らすことは、どこでもできるようになったけれど、沈思黙考したい時の、静かな喫茶スペースは少なくなった。