庶民のジャポニズム

JAPONISME IN EURO

写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda

JUNE 2007 LONDON

海外で日本文化を感じることがある。

冒頭の写真は2007年6月、ロンドンのMULBERRYショップより。ハンドバッグを吊り下げる竹の棒はハンドバッグと同系色に着色することで有機的かつモダンな印象となり、商品の特徴を引き立てている。竹の棒の着想は、日本の囲炉裏(いろり)で、ナベやヤカンを吊り下げるために使う自在鉤(じざいかぎ)であろう。その選択眼には驚く。

海外の人から日本の歴史や文化について聞かれた時や、海外で見る日本料理店や日本製品に日本文化を再認識することもあるが、海外の人同士が視覚表現媒体に日本文化を使用することに興味がわいた。

このような表現媒体の制作には、少なからず手間がかかり、成し遂げるには作り手の意志が必要とされる。それを持続させるには、日本の伝統芸能をアカデミックに鑑賞したり、日本人観光客にアピールする行為とは異なり、日本の庶民文化に対する認知と、現地でそれに共感する人が広がっていることが背景にあると思われた。

そんな事例を欧州の路上からひろってみた。

JUNE 2007 LONDON

2007年6月、ロンドンのLOUIS VUITTONショップより。旅行の時に使うバッグをアピールするために、海外の旅行者が日本で描く絵手紙をイメージして装飾用のハガキを制作して旅のシーンを演出したもの。増上寺は大きな葬儀でもないかぎり滅多に訪れる機会はないが味わいあるタッチで描かれた観光客は楽しそうで、欧州人の日本旅情をかきたてる。

JUNE 2007 LONDON

2007年6月、ロンドンのGIEVES & HAWKESショップより。ザ・コレクションというテーマで新作紳士服を紹介しつつ、世界をビジネスで飛び回るシーンの服であることを連想させるために、かつての紳士が世界各地で集めた土産物コレクションを応接間に飾る様子を重ねた。あえて服と反対色の暖色系で着色された世界各地を連想させる置物の中で日本代表として選ばれたのは招き猫である。

JUNE 2008 LONDON

2008年6月、ロンドンのソーホー地区専門店の外観より。夜中散歩している時に目について撮影したので正確なお店の情報は不明だが、コンピューターゲームのソフトを扱うお店である。画面の上から落下して来るキャラクターを射撃して点数を競う日本で開発された初期のコンピュータゲームを窓枠を使って巧みに表現している。同じキャラクターのシールを複数枚作ってランダムに配置するだけでなく、マニアの共感を得るために、キャラクターが撃たれて炸裂する様子も再現している。ゲームソフトはたくさんあり、新作の入荷を知らせるポスターや現物を窓に展示するだけでもよさそうだが、あえて日本のレトロなキャラクターを選び、手間をかけて外装している外国人店主の情熱がお店に独特の個性をもたらしている。

JANUARY 2008 FLORENCE

2008年1月、フォレンツエで開催された第73回ピッティ紳士服見本市会場中庭より。主催者側は季節を象徴するイメージとして高さが2メートル程ある日本のアニメキャラクターの人形を配置した。その意味は不明だが、本来カラフルなキャラクターをモノトーンで着色したことにヒントがあると思われた。キャラクターの原作者は日本人だが、展示を企画したのは外国人である。別の展示棟では同じアニメの画像を使った壁面装飾も見られたが、吹き出しの日本語が反転していた。それにしても、3日間の会期のために、これだけの物を作るエネルギーは計り知れない。

JUNE 2007 LONDON

2007年6月、ロンドンの和食ファストフードチェーン店ITSU(イツ)の寿司弁当中底より。ITSUは日本食のヘルシーな点に注目し、モダンな装いと日常使いで提供する外国人経営のチェーン店で、昼時は弁当を求めるロンドンのビジネスマンで混雑している。空いてる時間帯に寿司弁当を購入して、食べ終わると中底から現れたのは日本のレトロなポスターである。極東選手権競技大会はフィリピン、中国、日本の3カ国で競ったスポーツ大会で、現在のアジア大会の源流にあたり、その第九回目が昭和5年(1930年)に東京で開催されることを告知するポスターである。コンビニ弁当の底に使う図案としては珍しい選択肢である。

JUNE 2011 FLORENCE

2011年6月、フィレンツエで開催された第80回ピッティ紳士服見本市会場より。イタリアのネクタイ生地商営業マンが身につけていたネクタイを撮影させてもらった。彼はアジア諸国担当で、毎シーズントランクいっぱいのイタリアのネクタイ生地を持って来日し、都内のホテルで日本のアパレルメーカーから生地を受注する行商を10年以上続けている。休みの日は高尾山に出かける親日派だ。日本が東日本大震災で被災した直後の国際的な見本市会場には、急きょ職人に頼んで版をおこしたプリントネクタイでのぞんだ。

紹介した事例は、いずれも、日本人が商業的なパッケージとして仕掛けたものではなく、外国人が日本の庶民文化の中から取り上げたものである。