いつもの旅立ち

写真・文/Photo & Essay by Yukio Akamine

海外で見知らぬ人がスケッチしてくれたもの

今回はフィレンツェ、ミラノ、パリへの約2週間の旅。毎年9月は各都市で国際見本市が開かれる主だった展示会はMILANO UNICA展。2012年の秋冬素材展で英国、イタリア、フランス、スペイン等の生地メーカーが出展する。

海外出張は手慣れたものとはいえ、過去にはパスポートから現金丸ごと取られたり、荷物がまったく出て来ず、出張中着の身着のままだったり、乗るつもりの飛行機がストでまったく予定が狂ってしまったり、真冬のホテルで風呂の湯が一滴も出なかったり、何が起こるか判らない。

30代から40代にかけては毎年6~8回の海外出張が定番であった。40代は主にニューヨーク出張、当時のマディソンアヴェニューのポールスチュワートやバーニーズ、ボストンのルイスに自分の服を売り込みに行き、本場でどの程度通用するか道場破りの様に胸を借りに行く気分だった。

当時のN.Y.は治安も悪く、地下鉄もタクシーも危険であった。余った時間はSOHO地区の米軍のヴィンテージショップを探しては出掛けた。安ホテルに泊まり早起きしては朝食をとりにユダヤ系のコーヒーショップに出掛けた。トーストとサニーサイドアップ(2個の目玉焼き)、クリスピーベーコン(カリカリベーコン)、コーヒーを頼んだ時の事、マグカップにベッタリと真っ赤な口紅がついたカップが出てきたので即座にクレームを付けたところ、店の人がおもむろにカップを逆側に回し、“こちら側から飲めば見えないよ!”と言ったのには言葉がなかった。

旅に出ると異文化の常識に身を置くこと、こうした様々な体験こそ、時がたてば思い出の旅に変わるものだ。