ELECTORIC GUITAR TOWN OCHANOMIZU,TOKYO
写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda
商用で神保町から駿河台下まで来たら、エレキギターの看板が見えた。学生時代、エレキギターに親しんだ頃は、この楽器街へよく来たものだが、今はご無沙汰している。少し時間があったので、お茶の水駅まで坂をのぼってみた。
付近の大学や企業は高層化したけれども、坂の両脇に林立する楽器屋の風情は数十年前とほとんど変わっていない。驚くとともに、嬉しいと思った。
初夏のある日、地元の駅でエスカレーターに乗ると、前に70歳ぐらいの白髪の老婦人が立っていた。その前には身の丈もあるようなエレキベースを黒いソフトケースに入れて背負った女子高生が立っていた。
エスカレーターが中程までさしかかったときに、突然老婦人が女子高生に「あのう…」と声をかけた。女子高生はけげんな顔で振り向いて、聞いていたイヤフォンを外した。
すると、老婦人は
「それエレキベースでしょ。私の孫娘もバンドでベースやっているの。あなたを見てたら孫娘を思い出して、つい声かけちゃった。ごめんね。でもがんばってね」
と話しかけた。
とたんに女子高生は笑顔になり、頂上に着いたエスカレーターから足早に改札口に向かった。
私がエレキギターを始めた頃はエレキ、イコール不良という風潮が残っていて肩身の狭い思いをしたが、今は遠いむかしのようだ。
お茶の水の坂をのぼると、自分の手で弦を奏でることは、時代をこえた憧れと思わざるを得ない。