大黒のかやくご飯

KAYAKU GOHAN OF DAIKOKU DOUTONBORI,OSAKA

写真・文/織田城司 Photo & Essay by George Oda

真面目で良心的なお店は、お客様が広めてくれる。親や先輩などから継承され文化となる。大手企業のように派手な宣伝をしなくても、小さな飲食店や専門店がやっていけるのはこのためであろう。

池波正太郎の随筆でかやくご飯が名物の大黒というお店があることを知った。独特な視点に興味がわき、機会をみつけて立ち寄った。

名物のかやくご飯は油揚げ、コンニャク、ゴボウをダシ汁で炊き上げたもので、ほのかな香ばしさと、かみしめる程にしみ出す味わいで奥深い。

具材が米粒と同じぐらい細かく刻んであるので、それぞれが調和してひとつの味をを醸し出し、なおかつ食べやすい。その着想、細かく刻む技、配合の案配が見事である。

見た目や、ボリューム感を意識してたくさんの具材をゴロゴロと入れるのではなく、究極の引き算で、あくまで主役はお米なのだ。お米がおいしく感じられれば、あとは香の物と汁物で十分と思うことに日本人を実感する。

店内にはお客様から送られた絵手紙が額装されている。おそらく半世紀ぐらい前のものであろう。「いつも変わらぬ大黒さんへ」というコメントも見られる。芸能人が色紙にマジックで書いたサインではない。庶民が葉書のうらに鉛筆と水彩で描いたお店の風情などである。いくら料理がうまいといって、はたして絵まで描くであろうか。よほどの感動や想い入れがあってのことであろう。お店にとっては宝物である。

出入り口の引き戸の手かけに手をかけると、長年の使用でまわりの木材が2センチ程すり減っていて一瞬驚く。そこに先人たちがたどった道すじを感じた。

名店が減りゆくなかで、今でも先人たちの感動を共感できることは、ありがたいことである。